読書を常にし続け、編集者となり著者と向き合いつつも読書し続けた著者による本を中心にした自叙伝。
著者の他の作品を読んだことがあるが、仕事に対する圧倒的な熱量を感じさせる。それを本人は圧倒的努力というが、確かに努力量が尋常でない。
仕事の仕方は前時代的であり、ワークライフバランスが叫ばれる昨今においては誇らしい働き方ではないかもしれない。とはいえ、そうした時期を持つことの必要性を感じさせる。
読んでいると、ずーん、、と重たい気持ちになってくる。本の中で紹介されているのも重たい作品が多い。しかし、そうしたものに向き合ってこそ成長がある。泥臭く自分に向き合い、前に進んでいく姿に共感できる。
左翼に傾倒しなかった人はもろい、など、一見偏った記載を堂々とするが、なるほど、と思える。重い人だなぁ、と思うがそうして結果をもぎ取ってきたのだろう、と。そして今のネット時代だからこその読書の必要性を感じさせる。
見城氏の見解である、圧倒的に持つものor持たざるもののみが、表現することができる、という考えが理解できる。私は持たざる者なので、それに対し、しっかり向き合い、持たざる者としての抵抗を始めようと心から思った(←自分では始めてはいる認識はしていたが、まだ甘いことを再認識させられた。)。
また、差別の構造について是とし、そこから感動を生むことを作品を通じて紹介している。差別は悪だ、ということは簡単だが、かといって差別はなくならないとは思っていたところ、その構造こそが表現の源泉になるというのは、事例を当てはめると分かるものの、気づいていない観点であった。
なお、深い付き合いをすれば、しばらく疎遠になったとしても、一気に戻れる、というところも、深い付き合いの重要さを理解できた。
このように、見城氏自身の経験から、帰納法のアプローチで抽象概念にあげているので納得度合いが強い。むしろ彼自身の明確すぎるポリシーを共有している。
私は小さい頃から読書を精力的にしてきたたちではないので、その点後悔することがあるが、もうそれはしょうがない。ただ、だからこそ遅れている部分がある。血反吐吐いても頑張るしかない。
具体的な記載と、それに対する思いを書いていく。
○自己検証、自己嫌悪、自己否定の3つがなければ、人間は進歩しない。
→これが本のはじめに、にがっつり書いてあるから驚きである。これを読んで、こんなマイナスに感じる必要があるのか、と思ってしまったが、現状に安住すると生きている価値がないから、ここまでして、自分をいじめ抜いて、生きる価値を見出す、ということで、読了後にはなるほどな、と思えるようになる。人間というのは楽な方に流れる動物なのだが、それに反する動きをしてこそ言葉を持つ人間だな、と思える。
○夏目漱石のこころは僕に生きるとは何か、を考えさせた。吉本隆明の詩、転位のための十篇からは、どんな苛酷な場所にも飛び込んでいける、という覚悟をもらった。
→私には、幼い頃におけるそうした思い出の書でパッと出るものはない。ただ、先日、フランクルの夜と霧を読んで、このような思いを抱いたことを強く思い出す。夜と霧が自分にとっての上の本にあたると思う。
○正確な言葉で考えないと自己検証は出来ない。
→確かに。読書を通じて考える力を身につけたい。
○人間や社会の本質が書かれている、古典といわれる文学や神話をお勧めしたい。
→こうした文言はあらゆる本に書いてあったが、いまいち納得できなかった。そうしたもののエッセンスが書いてある本に目を通しておけばいいんじゃないのか、とさえ反抗的に思っていたが、本の具体例を通じて理解できた。重要なのは、何が書かれているか、ではなく、自分がどう感じるか。
○いくら高邁な理想を抱いたところで、それを実行に移さないと意味がない。
○圧倒的努力をして何かを勝ち取ったときに、「勝利」という事実以外何もいらない。
→実行が大事、は自分として常に意識してはいるところだが、それでもブレーキがかかることは度々おこってしまう。こうした甘い自分に喝を頂いた。
○僕は人と会うときは、常に刺激的で新しい発見のある話、相手が思わず引き込まれるような話をしないといけないと思っている。
○感想こそ人間関係の最初の一歩。〜感想が、仕事をしている本人も気づいていないことを気づかせたり、次の仕事の示唆となるような刺激を与えたりしなければならない。
→感想の重要性。備忘的に残す。
○旅で、すべてが外部の環境に晒されることが大切。世間に出るということは、すなわち自分を知らない他者のなかで戦うことを意味する。
→旅に関して自分はこうした経験はしていないな。。と…
本書は完全なるビジネス書である。
ビジネス書は、○○すべき!と書いてあり、それは確かに正しいが、腑に落ちないというか、指摘を受けて行動しよう、とならないことも多い。著者よ、あんた言ったことやれてんのか、とそういう訳である。学校の勉強みたいなものかもしれない。
本書は著者の体験に基づいているので嘘がない、といえよう。氏の他の著作よりビジネス書としてよいのではないか。
好き嫌い別れるかもしれないが、幻冬社らしい本だなー、と思わせる。