【書評】疑問が残る部分はあるが、新聞記者の働き方が分かる本。〜地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」(青木美希著)〜

3.11後、福島を追いかけ続けた朝日新聞記者による、ルポ・告発本です。

記者の仕事ってこんな感じで記事化までやっているんだな、という記者になりたい人には仕事のやり方の一例を示している本としてわかりやすい本だと思います。

本書を土台として考える本と位置付けるとかなり良書だと思います。うーん、、と考えながら読んでいました。

本のトーンは重いですが、現場の声を伝えているとは思います。

(後からネットでちらっと調べると、色々あるようではありますが。)

はじめに

新聞記者が告発記事を作ったりする際に徹底取材をしないといけないことが分かります。

上司からちゃんと現場を抑えろという話があったことや、除染記事摘発の時に、足が凍傷になりながらも待機し続けた記載があったのが印象に残っています。

類似の例として、週刊誌の芸能記事スクープも芸能人に張り付いて大変そうだな、と思っていました。そうした大変さを割と詳細に書かれています。話は少しそれますが、私は正直、週刊誌の芸能記事スクープを取る意味が分からないと思っているのですが、世間としてはウケるから金になるということですかね。

本書を読んで分からないのは、報道は、事実関係を摘発するところまでしかしてはいけないのでしょうか。無許可で写真撮ったりすることまでするのであれば、そこから先の提言はしちゃいけないんですかね。

なぜ現実的な対案を出し、提言しないのでしょうか、というのは、個人的にはかなり疑問に思います。テレビのコメンテーターの方にもそう思う人もいますが、対案出してしゃべった方が議論が建設的になると思うのですが。。

欠点のない完璧なものなんてないので、「○○はダメだ」というのは簡単だと思いますが、「だから○○した方がメリットが多いからそちらにすべき」という主張の方が大切なのではないでしょうか。

なお、タイトルが「言ってはいけない」とありますが、がっつり書いていますし、これは別に言ってはいけないと言論統制している訳ではないと思います。これは本を売るためのタイトル戦略だとは理解しつつも、さすがに矛盾しているなぁ、と気になります。

ここからは各章ごとに所感を述べていきます。

第1章 声を上げられない東電現地採用者

これは、東電現地採用者に限らない、構造的な問題ですね。官民構造にスポットを当てていますが、民民構造の中にも同じく深い問題があるかな、と。

第2章 なぜ捨てるのか、除染の欺瞞

「はじめに」で書いたことを一番感じた章です。除染作業の現場にあたって、丁寧に取材されている様子が書かれてはいて、読み物としては現場の感覚が分かって興味深いのですが、それが、最後は「こんなやり方ではダメだ」「ルールを改正せよ」というところで環境省への告発に繋げているところが、現場の一部の切り取りで全体攻撃に行き過ぎでは…と思う部分がありました。

第3章 帰還政策は国防のため

そうした面がもしかしたらあるのかもしれませんが、現在の情勢から見ると、考え過ぎではないでしょうか。もちろん局面が変われば国防の観点も強く出てくる可能性は否定はできないとは思いますが。

第4章 官僚たちの告白

読み物として興味深いと思います。裁判のようなもので、完全に事実を掘り起こすのは関係者の解釈が入ってしまうので不可能ではありますが、何があってどう決められているかをある一面から掘り起こそうとされた軌跡を辿っていました。「だから何が言いたいんだっけ?」という観点は残りますが。。

第5章 「原発いじめ」の真相

この章は素晴らしいと思います。まず原発いじめの悲壮な感じが当事者への取材を通じてありありと伝わってきますし、こうしたマイナス情報は意図的に広めないと周りは見ようとしない問題だと思います。校長に主張し、記事化して、しっかり主張が関係者に広く行き渡ったのではないでしょうか。

第6章 捨てられた避難者たち

ここが一番筆者の主張が分からないです。要すれば「全員救え」ということなんですかね。自治体職員の対応が固いとかそういう主張は恐らくそうなんだろうな、と思うのですが、他方で、税金を活用している以上、個人救済への負担に使うのは控えるべきという要請もあるように思うのですが、筆者の主張はあまりよく分かりませんでした。

終わりに

よく、事実と解釈は分けろ、という話をされますが、なかなか難しいことがこの本を読んでも分かるかと思います。

この本の記載は混合型なので、分け目はよく慎重に読み込まないと分かりません。

新聞では、原則として解釈は社説等にまとめる整理としているとは思いますが、公平な目で報道を読むことの難しさを感じた本でありました。

また、社会派の作品は、やっぱり全体に重みが増しますね。難しいとは思いつつ、もう少し気軽な気持ちで読みたいなぁ、と思ったものです。

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲