【書評】「父滅の刃」(樺沢紫苑著)〜父性不足の現代を生き抜く術を考える〜

「父滅の刃」というタイトルからは本書の主張は一見分かりにくいが、本書は、「父性」について論じた本である。

様々な映画作品で描かれる「父性」について時代の変遷とともにその扱われ方も変わってきていることを認識することを通して父性について考察した作品である。

本書に掲載されている映画は多いが、うち有名作品のいくつかを観ていれば、十分に理解できるし、それを材料にして考えさせられる作品だと感じた。

父性不足の現代

「パワハラ」「モラハラ」という言葉があり、教師が暴力を振るうものなら、保護者からクレームが次々と来るようになった現代。

また、少し前だが、「友達のような親」がTVの特集となっていることもあった。

これらに共通するのは、現代人の「怒られる」経験の激減である。これが与えている影響は大きい。

父性は、ビジョンを示し、軸を持って生きることだったり、規範を教えてくれることを指すが、これらは、「厳しさ」の側面である。

そして、父性を持つ存在を乗り越えることを通じて一人前の成人になっていくが、そのプロセスがなくなってきたのだ。

これこそ、父性不足の時代である。

もちろん、本当のパワハラがいけないことではある。そしてそれは本書でも「強すぎる父性」として悪例として示されている。

しかし、多くの場合、現代は父性の不足がある。それは大きな問題であると思う。

ちなみに、幸い、私個人は、物理的暴力経験は少ないものの、怒られる経験自体は山のようにされており、どちらかといえば「強すぎる父性」に苦しんできた。ただ、現代人の傾向としては父性不足が多いとは思う。

私自身、実際、小さい頃から怒られずに育った知人が結構いる。

スタジオジブリ作品

本書では、父性について色々な角度から示されているが、父性が分かりやすく、かつ番人が知っているのがジブリではないか、と思った。

「ゲド戦記」の時の宮崎親子の話の例が印象的だった。作成中、宮崎駿さんは息子さんに何ら助言をせず、むしろ険悪ムードであったようだ。

父親の観点に立てば、アドバイスしたいのを堪えて、息子を崖から突き落としているのだ。

そして、その経験が人を成長させる。実際、ジブリ作品は、主人公が崖から突き落とされて、そこから急激な成長を遂げるというストーリーラインが多いのだ。

作品が示す父性不足の解決策2つ

結局のところ、現代が父性不足であることはもう防ぐことはできない。

それに対し、作品が解決策を示していると著者は指摘する。

自分で父性を発揮して突破する

1つ目のアプローチが自力のアプローチである。

例えば、新海誠監督作品の「天気の子」。この作品、評判はそこまで良くなかった印象ではあるが、個人的には好きだった。

大人は皆頼りないから、主人公含めた子供で行動していくことになる。そして、子供だけで行動し、その中で自力で成長していく。

そして、最後は主人公が大きな決断をし、その決断が受ける結果をしっかり認めた上で、前に進もうとする。

これが解決策の1つであり、私は、その「自分で突き進む強さ」に共感して好きな作品だった。

もう1つの例が、「鬼滅の刃」。本作は、一見分かりにくい面はあるが、結局個人の戦いによるところが大きい。

なぜなら、鬼が強すぎるから、人はすぐに死んでしまうのだ。協働して戦うし、協力してはくれるが、結局自分でやるという意思がないといけないことを様々なシーンで如実に示している。

サポートはするが、自律した個人同士が協力して戦うのだ。

仲間との協力〜補い合うチーム作り

もう1つが「仲間」というアプローチである。

これの典型例が、「ONE PIECE」である。ワンピースにおける主人公たちの海賊団は、完全に自律した存在ではなく、チームで補い合う関係にある。

戦闘シーンだけ見れば1対1が多いにも見えるが、協力して倒すシーンも多いのだ。その上で、航海技術・食事管理など日常生活部分を考えると、完全に主人公1人では生活さえできていない。

その中で、本作主人公ルフィのリーダーシップは面白いと思う。「頼り合う関係」なのである。自分ではご飯を作らず任せるし、航海も完全に一任である。

それでも大方針はリーダーが決める。新しいリーダーシップのあり方という意味でも参考になる事例ともいえる。

強大な父性

これまで父性の弱い場合について触れてきたが、強すぎる場合も問題である。

父性の強さは魅力にも繋がるのである。映画・作品なので、悪役が好かれるのも父性の働きである。

曲がってしまってはいるが、行動はドンドンするし、信念がはっきりしているという意味では魅力的なのだ。

どこが問題かといえば、強すぎることによる萎縮の問題はあると思う。萎縮しすぎてかえって自主性がなくなってしまうという危険性があるのだ。

その意味で先に触れたような、「何も言わない」というアプローチは適度なのかもしれない、と思う。

母性と父性のバランス

もちろん、母性としての優しさも必要である。

しかし、母性だけではダメなのだ。

人間にはどちらの側面も並存しており、人により強さが異なる。だからこそ、補い合うことが必要になると思う。

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲