フィードバック入門(中原淳著)書評〜人を「変える」方法としてのフィードバック〜

「成長のためにはフィードバックが大切である」としばしば言われます。

しかし、そもそも「フィードバック」とは何でしょうか。人から指摘を受けることというイメージはあるとは思いますが、その言葉の中身は実はよく分かっていないと思います。

成長のためには、インプット・アウトプット・フィードバックの3点が重要ですが、そのフィードバックについての基礎知識を網羅的に記載したのがこの本です。

本自体は、フィードバックをする側へのアドバイスとなっていますが、フィードバックは、受ける側の姿勢もかなり重要であることが、フィードバックについて知るにつれ分かってきました。

成長のためにはフィードバックが必須

最終的には、「自律」して、自分で自分を律さないといけないのかもしれませんが、それを実際に行動に移すことは、相当難しいことです。むしろ、完全な自律は不可能ではないか、と考えています。

もちろん、問題行動が発生したときに自分で考えて、自分で修正することは大切であるのは間違いありません。しかし、「自分で修正すべき」ことに気づけないということがあるので、自分自身で行動パターンを変えるのには限界があります。

そのため、フィードバックは成長に不可欠と言えます。本文では、このように記載されています。

「人の行動のクセ、認識の偏りなどにより、人間の行動は、ひずみやバイアスがかかっています。その中で、真っ直ぐの方向に進んでいくには、(中略)フィードバックをしっかりと受容しながら、それを元に、自分を立て直していかなければいけません。」(12~13ページ)

まさにその通りで、癖やバイアスは、環境要因で生じたとしても、それを自分で気づくのは難しいところがあります。そのため、他者に見てもらうプロセスが必要になってきます。

正しく進んでいるかどうかを誰かにチェックしてもらうことが必要なのです。どんなことでも、間違って進んでいないかを確認してもらいながら進めていくことが大切だと私は考えています。

小さいことは、自分の中で修正できるし、自己修正の範囲は経験を通じて拡張すべきだとは思います。しかし、潜在意識下で無意識にやっていることを自分で修正しきることはできません。そこで、他者に指摘を受けながら、修正していくことが必須になってきます。

フィードバックの2つの中身

フィードバックは大切ですが、カタカナの「フィードバック」という言葉は、よく考えてみると意味の分かりにくい言葉です。

実際には、「フィードバック」はこの2つの要素から定義されるものであることを著者は指摘しています。

情報通知

まず1点目が、「情報通知」です。

これは、耳が痛いことであっても、しっかり伝えることを指しています。耳の痛いことを言うのは簡単ではないですし、言う側の胸も痛むことです。

ですが、行動の改善のために指摘することが必要です。そして、ここで「情報」と書かれているのもポイントで、指摘する側は、その行動をする指摘される側に対して、プラスでない感情を持っていることがあります。

しかし、ここで「だからお前はダメなんだ」に代表されるような、人格攻撃を断じてしてはいけません。あくまで、客観的な事実を指摘するのです。

立て直し

もう1つの内容が、「立て直し」です。事実を指摘し、フィードバックの受け手に問題行動を理解してもらうことも重要ですが、理解してショックを受けるだけだと、実質的には何ら変わりません。

そこで必要になってくるのが、振り返りと、アクションプランづくりの支援になります。「そこまで必要なのか?」と思ってしまいそうですが、そのくらい、人は変わらないと言うことです。

あくまでフィードバックの受け手自身が問題点を認識し、その原因も自分が気がつきにくいところもあるので、それを認識してもらう必要があります。その上で、問題行動を起こさないようにするにはどうしたら良いのか、という観点でも考えていく必要があります。

フィードバックの6つのプロセス

フィードバックはする側が受け手に対して、問題となる行動を指摘し、「直してね」と伝えれば終わりという簡単なものではありません。

プロセスを分析していくと、実はこの6つの要素に分解することができます。

事前の情報収集

あらゆる物事に準備が大切だな、という思いを日に日に強くしているところですが、フィードバックも同じであるようです。

本文中にこのような記載があります。

「フィードバックにおける事前準備が最も大切(中略)相手に刺さるようなフィードバックをするためには「できるだけ具体的に相手の問題行動の事実を指摘すること」が必要」(95ページ)

「人に刺さる言葉を言う」ことは意図してやることは簡単ではないですが、それでも狙いをつけてやってみることで、成功確率が上がる、というのが持論なので、刺さるフィードバックをするためには準備が大切、と言われると、相当な説得力を持っているように感じます。

その後の5つのプロセスも紹介していきますが、人を変えるには、ここまで徹底的に客観証拠を調べあげ、うまく伝えていくことが必要なのか、と思い知らされます。

社会人1年目に、「2ポスト上の立場から考えてみよ」と口すっぱく言われたことを思い出します。フィードバックされる側こそ、する側の視点に一度立って考えることで、自己成長のためのポイントが分かってきます。

信頼感の確保

準備して、いざ本番!

…という前に、ワンクッションを挟む必要があります。

それが、この「信頼感の確保」です。人は、「何を言われるか」よりも「誰に言われるか」を重視する傾向にあります。

「大したことない」と思っている人が、実は大したことを言っていても、言われる側は気づくことができないのです。逆に、普段から尊敬している人が、何気なく発した言葉は、実は発した本人は思いつきで話していただけであっても、話を聞く側に大きな効力を持つことがあります。

要すれば、人は信頼している人からの言葉であれば受け入れやすいのです。そうであるからこそ、フィードバックをする前こそ、「相手のことをよく知っている、理解している」ということを伝えることで、信頼感を確保することが大切になります。

事実通知

そして、本番が始まります。まずは、問題となる行動が存在していることを指摘します。

「大切なことは、(中略)「目的」を最初にストレートに述べてしまうことと、「一緒に話し合っていこう」「一緒に改善策を考えよう」と述べることです。」(108ページ)

ここでのポイントは、フィードバックは、どんな言い方をしても、「痛み」を避けることはできないそうです。

その上で、客観的・正確に事実を摘示することが大切になります。

人は、嫌なことは受け入れたくありません。そのため、感情面が入っているように思われるものは、その事実すら受け入れなくなるモードになってしまうのです。

そうであるからこそ、ファクトベースで徹底的に伝えることが大切になってきます。

問題行動の腹落とし

ここが時間のかかり、個人差のあるプロセスなのですが、フィードバックをする側と受け手側で解釈が異なることをなくすための、いわば「擦り合わせ」の作業になります。

「今の現状が、めざすべき目標と相当かけ離れていることを、しっかり認識してもらう」(115ページ)プロセスとなります。

耳の痛いことは、受け手としては聞き入れたくないのが通常です。そして、問題行動を指摘されたときには、客観的に伝えても、「でもそのときにはこういう事情があって…」という形で言い訳とも受け取れる理由が出てきてしまうのが自然です。

それがなくなり、自然な受け止めが取れるまで、フィードバックをする側と受け手で相互理解を図ることが必要です。

場合によっては、1〜2時間かかったりすることもあるようです。人から指摘されてもこの程度なので、自分自身でフィードバックするときは、これ以上に受け入れに時間がかかることになります。

「受け入れには思った以上に時間がかかる」ということを認識しておくだけでも、認識のズレがなくなってくるのです。

振り返り支援

ここまでのやり取りにより、求めていることと現実との間にギャップがあることは認識したこととなりますが、そのギャップの内容を振り返り、次の行動を決めるステップが、この振り返り支援の段階となります。

受け手側が、自身の過去・現在の状況を「言葉にすること」が大切です。このステップでは、フィードバックの受け手が、以下の3つについて理解することが最終的なゴールとなります。

何が起こったのか

1つ目が、「何」が起きたのかです。これは、事実認識なので、一番簡単なことではありますが、もし誤解が生じた上で、起こったことを認識していれば、その是正を図る必要があります。

なぜ起きたのか

このプロセスは、自身では気づいていない可能性が十分にあり、対話を通じて、その真因を理解していくことが大切です。

「なぜ」というところは、自分の潜在意識下で無意識に活動しており、そこが原因となっていることがしばしばあります。

この無意識下の活動を認識し、その上で、「これが原因か」と腹落ちしてもらうことが必要になります。

これからどうするか

ここまででも既に大変ですが。ここから更に、「これから」についても考えないといけません。

原因が分かったところで、その行動を改めるための行動を受け手側が自ら決め、する側と約束をします。フィードバックする側が「じゃあこれから〇〇してね」と言うだけでは人は変わりません。

フィードバックの受け手が自ら宣言し、それを聞いている必要があります。そうすることで、「約束」となるので、実現可能性が高まってきます。

期待通知

最後に、期待を伝えることで、受け手の問題行動が改善するためのコミットを高めます。

「やればできる」という感覚を持たせるように努めます。変わるために行動するのであれば、最大限援助することを約束することになります。

その上で、「再発予防策」を予め考えておくことも大切です。問題が再発することを前提として、予防策を事前に講じておきます。

「今抱えている問題が再発するパターンを把握し」「再発しそうになったときの行動」を予め決めておきます。ただ、ここあたりまでできるのは、かなり難易度が高いと思います。

そして、フォローアップも大切です。定期的にフィードバックの機会を設け、改善行動が取られているか進捗確認します。

人を変えるには、このように手間暇を相当かける必要があるのです。

編集後記

本のタイトルこそ「フィードバック入門」としていますが、かなり深いところまで述べられている本だと思います。

人が行動を変えるのは、簡単ではないのですが、できることが分かりました。そして、やるにはコツがあるので、この枠組みを理解するだけでも相当違うこともわかりました。

自身で行うフィードバックと、今後のフィードバックの向き合い方を変えさせられる本でした。

本はこちら

書評関連記事は他にもたくさん!もう1記事いかがですか?

記事はこちらです。

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲