マスカレード・ホテル(東野圭吾著)【書評】〜細かいサブストーリーも全てメインストーリーと繋がっている〜

もし、映画化された作品の評価が低い方がいたら、原作の小説を是非読んで頂きたいです。

また、映画化された作品がよかったという方ももちろん、原作の小説を読むことをお勧めしたいです。

さすがの緻密な作品でした。小説「マスカレード・ホテル」は、映画を見た時のモヤモヤ感を全て払拭する作品でした。

↓映画の感想は↓

映画化作品について

今回、この作品については、「映画→小説」の順番で見たのですが、やはり「小説→映画」の順番の方がよかったような気がしています。

映画から入ってしまうと、まずほとんど登場人物の名前が分かりません。本作でいえば、木村拓哉演じる新田刑事は分かりましたが、本作のヒロインの長澤まさみ演じる山岸ホテルマンは、映画を見た後は、「山岸」という名前すら思い付きませんでした。

その上で、本作は、小説で500ページ超あります。時間を忘れて読むことができましたが、正確に測った訳ではありませんが、読むだけでも5時間くらいかかったと思います。これを2時間と少しの映画に収めると言うのがそもそも無理があるなあ、と思いました。

ドラマ・映画化したガリレオシリーズについても、特にドラマについては、30〜50ページほどの短編を1時間ドラマに編集しています。そのくらい東野圭吾さんの作品は、「緻密さ」に凄さがある作品なんだなあ、と思いました。

客を疑う警察と信じるホテルマン?

映画化作品の宣伝文句の一つとして、「客を疑うか、信じるか?」とあり、確かに映画化されているものも、木村拓哉さんと長澤まさみさんの軽快なやりとりを通して立場の違いを表現しているのですが、ホテルマンも客を絶対的に信じている訳ではないことは、表現すべきで、だからこそ、一見警察官とホテルマンという考え方が違う職業に見えながらも、両者がお互いに違う目線を持っていることに気づき、主人公2人がお互いに尊敬し合うというシーンに繋がります。

「ホテルマンはお客様には反論しません。・・・お客様を快適な気分にさせることが第一なのです。逆にいえば、それさえ果たされれば、必ずしもいいなりになる必要はないということです」(46ページ)

本作におけるこのセリフの重みは結構あると思います。だからこそ、嫌がらせをしてくる客に対して対応する刑事は、ホテルマンの振る舞いを見て参考にしているシーンなどにも繋がってくるのです。

4つの事件

本作は、4つの事件の繋がりが最初あるように警察が考え、しかし、捜査が進んでいくことで、繋がりはあるが、同一犯ではないことが分かってきます。

この4つの事件の繋がりを考えようとする刑事の様子が原作では細かく書いてあり、それがために4つの事件は同一犯ではなかったことが分かったときの衝撃は、かなり大きなものになっているのです。

細かい設定

映画化された作品を見た時、色々な疑問が正直ありました。パッと思い付く限り、このようなものです。

・新婦(前田敦子演)に毒が入ったようなワインが送られた理由(←そしてこれは実は毒入りではない!!)

・障害者を装った真犯人が最初のホテル訪問の時に手袋をしている理由

・最後のシーンで新田(木村拓哉演)と山岸(長澤まさみ演)が少しいい感じになって終わる理由

・4つの事件を繋げるキーワードとなる、緯度・経度説が証明されるに至った経緯

・お客に関するエピソードがフォーカスされる理由(特に、生瀬勝久演の元先生役と、菜々緒演の離婚を申し込みたい女性役)

東野圭吾さんのミステリ作品の良さは理系の方だけあって、物事が起きた際、(ほぼ)全ての因果関係を丁寧に説明し、伏線を見事なまでに回収していくことと、トリックの巧みさです。かつて東野圭吾作品にハマって読み漁っていた時は、そういったことが良かったんだと思います。

しかし、映画化作品では、少なくとも上記の事象が発生した理由が分からず流れてきます。それだけ原作が緻密であり、「一部を切り取って演出する」ことができないような緻密さで作られているんだなあ、と改めて凄さを実感しました。

ここまで緻密に、しかも映像なしなので、文を読んだ時のイメージのみで世界感を創り出しているのはすごいなあ、と感心しきりでした。

例えば、

・お客に関するエピソードがフォーカスされる理由(特に、生瀬勝久演の元先生役と、菜々緒演の離婚を申し込みたい女性役)

→これは、当初4つの事件は同一犯で、裏で教唆する共通の犯人がいると思われて捜索されていたのが、別々の犯人であることが分かり、4つ目の事件の犯人が一切目星がつかなくなったことから、正直この2人は犯人可能性が薄いのですが、かかる状況であることから丁寧に追った、というのが理由です。サイドストーリーにもしっかり理由づけがあるのでした。

これは、小説でこのような記載がされています。

「そういうことか、と新田は合点した。安野絵里子や栗原健治のことを報告した時、彼自身は事件とは無関係だろうと思ったのだが、上司たちは過剰に反応してきた。あの時点ですでに彼等は、どういう人間が犯人であってもおかしくない、と考えていたのだ。」(334~35ページ)

といった具合です。映画作品見ても、なぜこの2つに対し、警察が丁寧に接しているのかの説明はなかったです。まあ、実質的に盛り込むのは厳しいとは思いますが。。

新田(木村拓哉演)の人間性とサポート

原作を読むと、主人公の新田刑事(木村拓哉演)が、周りからのサポートも受けながら成長していく様子が描かれます。

映画では描かれていないのですが、成長していくシーンはミステリ作品ながら少し心を動かされます。

例えば、

「そういうところを直してやりたいのですよ。人の情が分かるようになれば、あの人はもっと素晴らしい刑事になります。あなたには迷惑な話かもしれないが、これも何かの縁と割り切って、どうか優しく見守ってやってください」(382ページ)

これは元バディの所轄刑事(小日向文世演)のセリフです。映画では完全なサポート役に徹していますが、原作では彼は、新田刑事のプライドの高さと、自分が手柄を取りたいという欲に対して、直したいという熱い思いを持ち、ホテルマンの山岸(長澤まさみ演)に「人の情が分かる人間にさせて欲しい」というメッセージを残します。

また、ホテルマンの山岸からの見た観点でいえば、

「新田の、縁の下の力持ちは嫌だが、悪を逃がすのはもっと嫌だ、という言葉が蘇ってきたからだ。彼のあの強い思いを無視したくなかった。」(408ページ)

というシーンがあり、前のセリフの時点でプライドの塊であることを「直したい」と言わせるほどの男が、嫌な「縁の下の力持ち」を嫌だけどもやる決意を示すシーンに繋がります。

ちょっとしたシーンなのですが、新田刑事はその間不貞腐れたりしているので、かなりの成長と意地で、最後の犯人逮捕に繋がっていくシーンで、いいシーンでした。

おわりに

映像化作品を見た時、「分かるけどなんか納得いかないな」と思った箇所が結構あったのですが、原作の小説を読むと全て氷解したので、妙なモヤモヤ感が消えてよかったです。

ただ、先にも書いたように、この小説を読むのに5時間程度と1日の大半を使いました。さすがに小説読むのは時間ある時がいいなあ、と思いました。

実家への帰省とか、旅行のお供とか、長期休暇とか、時間がある時の優雅な娯楽だな、と小説を読む時の時間管理についても勉強になりました。

本はこちら

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新の情報をお届けします