7つの会議(池井戸潤著)【書評】〜人生で譲れないものは何か〜

この度映画化される「7つの会議」を映画に先行して小説で読みました。

池井戸先生の作品は一時期色々と読んでいたのですが、映像化され過ぎていたので少し足が遠のいていました。

久しぶりに読み、相変わらずの熱い作品でした。

はじめに

本作は、バックグラウンドの銀行ではなく、電機メーカーが舞台ですが、いかにも池井戸先生らしい作品です。

半沢直樹シリーズは痛快な部分が多いですが、本作は、半沢直樹シリーズ同様の展開ではありながら、リアルさもどこかで付きまとうように展開していきます。

主人公の比較でいえば、半沢は真っ直ぐ進みますが、本作の主人公八角はかなり戦略的に動きます。

そして、池井戸作品の多くがやっているように、「働くこと」について問いかけます。

一時代前のように思える描写も多いですが、決して色あせているということはなく、現に事件が起きているのを見ると。今でもそうした文化は消えていません。

企業で働くことについて、考えさせられる作品です。企業で働くということの限界すら垣間見れます。

諦めない心

本作の主人公である八角という男は、作中を通じて行動し続け、それは意味の無きものにされたりもするけれども、折れて腐りそうになりつつも諦めないところにこの作品の想いを感じます。

八角は、元々は優秀な会社員でしたが、結果でしか見ないパワハラ上司の下で働いた時に、そしていよいよ上司が要求するコストカットも限界で、という時に、同僚は不正に手を染めるが、八角は「無理なものは無理だ」と主張します。そして、同僚の不正も気づいてはいましたが堂々と指摘はせず、結局、その時は、上司の評価を落とし、以降は閑職状態で過ごしました。

本作では八角は50歳の係長という設定で、先に出てきた同僚(北川)は部長になっていますが、作品途中まで、八角は「評価、昇進を望まず、適当に過ごしていればいい」というポリシーの下でのらりくらりと過ごしていきます。

そして、本作の時点では八角の上司にあたる課長が不正に手を染め、それを八角が指摘します。過去から比較すれば、指摘した時点で一歩進展ですが、上が相談して決定した事項は「隠蔽」で、課長が閑職に追いやられるのみで、不正の摘発には繋がりませんでした。

それでも八角は諦めず、摘発を続けます。実は2度目も揉み消されますが、そうしたら次は間髪入れずに3度目の行動に出ます。

そのストーリーを見ていくと、「不正の生じた組織の一層は難しいな」と感じる部分もありますが、他方で、その度に苦虫を潰しながらも、また立ち上がり行動していく八角の想いを強く感じます。

トータルで見ると結局、「想いが強い」方が最終的に勝つんだと思います。

なお、若手女性社員を主役としたサイドストーリーがあり、彼女は会社を辞職し、イキイキと働くようになります。彼女も、徐々に想いを強め、行動していくことで、上手く物事が回るようになっていきます。

正義とは何か

池井戸作品の多くで問うているのが、「正義とは何か」です。

「小さな不正から始まり、徐々にエスカレートし、不正が露呈した時の社会的影響が大きくなり、後に引けなくなる」様子がこの作品で描かれますが、そうした隠蔽側の正義は、「会社の利益のために」「自分の保身のために」ということになってきます。

非常に消極的な正義で、社会的に認められるものではないのですが、隠蔽工作をする側は、ごくごく真剣に「会社の損害を考えてみろ」などと自分なりの正義を振りかざしています。

一般的には間違った正義であれ、それを積み上げていくと信念のようなものになり、それを破壊するのはかなり難しくなります。

それに対し、大小の違いはあれど、不正を暴く側も、何人か出て、それぞれのモチベーションがあるのですが、やはり、最終的には正義感の強い人間が強いです。バカにされたから見返す、閑職に追いやられたから見返す、というのが不正を暴く側の八角の他の者の正義感でしが、彼らは力及ばずでした。

正しいか間違っているかを判断してくれる神様が、現実の世の中にいて、判断してくれる訳ではないので、「正義とは何か」は自分で考えなければなりません。

そして、その正義を完遂することこそ、情熱を燃やす部分なんだ、と本作を読んでいると強く感じます。

想いは大切だし、強い方がいいです。しかし、想いが「欲」に変わり、想いが歪んでくると、暴走してしまいます。想いをしっかり持ち、正しいと思われる方向にコントロールしていくことが必要だというメッセージを感じます。

周りのサポートの大切さ

しかし、想いがあり、しっかり行動をする人であれど、サポートする人がいないと上手くいかないこと、要すれば人間関係の重要さも、本作では示唆しています。

辞職を決意した若手女性社員のサイドストーリーが顕著に描かれていますが、この女性社員は、友人の分析的思考の手助けがあり、さらに、会社員を辞め自営業をしている男の手助けもなければ、彼女がやりたいことは成功しませんでした。

また、八角も、裏を取るための調査の協力しかり、モチベーションは全く違えど、同じく不正を指摘する同士然り、彼らの助けなしに不正を暴く行動に出ることはできません。特に本作ではその描写が顕著で、途中の主人公の動き方は、相手を脇腹から不意打ちする様な攻撃方法を取っています。

様々な人間関係を描写した本作ですが、仕事は人間関係で動くことを強く印象付けます。働く人は選ぶことが大切だ、というメッセージもしっかり込められており、それはサイドストーリーの女性元社員のイキイキと会社員退職後に働いている姿に現れている様に思えます。

映画・ドラマ化される作品の見方について

今回、「原作を読んで、映画を見る」というルートを踏んでみました。

他方で、東野圭吾さん原作の「マスカレード・ホテル」については、映画→原作の順で、映画まで見ました。原作にもよるかもしれませんし、まだ7つの会議は映画すら見ていないですが、原作→映画の方がいいな、と直感的に思いました。

映画は小説よりも表現できる部分は時間の都合上も限られているので、編集し、それでも原作のポイントは失われないよう、表現する必要があります。

また、映画においては、映画の作成者の解釈が加わるので、その解釈によって、伝えたいメッセージが原作を読んで感じたものから変わることがあります。

それなので、最初に情報量を多い方を見て、次にインパクトは大きいが、焦点を絞った副次的な映画・ドラマを見る方が分析が楽しめるのかな、と仮説を立てています。

という訳で、「7つの会議」は映画をしっかりみようと思います。楽しみです。

おわりに

本作の好きなところは、小説なのでフィクションではあるのですが、リアルに見える描写です。

一番印象的なのは、不正を摘発した八角は、大きな業績を残したことになるはずですが、ポジションが据え置きとなったことです。

「虚飾の繁栄か、真実の清貧かー(中略)八角が選んだのは後者だった。」(484ページ)

と最後にあるのですが、この言葉が重くのしかかってくる様な終わり方でした。

本はこちら

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲