【書評】「具体と抽象−世界が変わって見える知性のしくみ−」(細谷功著)〜人間の特殊技能としての「抽象」概念〜

本を分類すると実用書になると思いますが、一見、タイトルだけを見ると、哲学書のようにも思えます。

内容は正直簡単ではなく、ちゃんと腰を落ち着けるような場所で読んだ方がいいとは思いますが、かなり興味深い内容が続きました。

タイトル通りですが、「抽象」と「具体」の関係について、かなり深く考察されています。

そして、世の中の問題が生じているメカニズムも分かります。そしてその総論としての解決法も分かります。

それをどう各問題について具体化を測るか、という点はまた難しい点はあるにせよ、メカニズムを知っているのと知っていないのでは大違いだと思います。

なお、この本を取ったきっかけは、宇都出さんという方のメルマガでちらっと紹介されていて興味を持ったことがキッカケです。とはいえ、想像以上に新しい発見に満ち溢れた本でした。

はじめに

この本は、これからAI時代が到来するにあたって、人間がどう生き残るかを記した本とも見ることができる、と考えます。

AIは指示通りこなすプロです。それに対抗するためには、人間にしかない、特異能力の分野で活躍するしかありません。

そのヒントとして、「抽象化」という概念があてはまると思います。

そして、その下位概念として、アナロジー、アブダクションがあると思いました。

アナロジーとは類推、つまり連想力と言い換えた方が分かりやすいかもしれません。

そして、アブダクションとは、ざっくり言えば、仮説を立て、そこから類推する力です。

そこあたりの本もいくつか読んで、私はこう整理しています。

マネジメント能力はもっと下流にあるということですね。これもこの本で学んだことです。

世間的には、「抽象と具体をしっかり意識して考えろ!」とよく言われると思いますが、実は、これは凄く深い言葉です。

それを言った人が、果たしてその意味が分かっているのか?と今ではかえって質問したくなってしまいます。

そのように考えていくと、抽象を完全に理解している人からとってみれば、この本の記載は当たり前かもしれません。

しかし、大半の方にとっては気付きのある本だといえると思います。

ここから、内容についても触れながら紹介していきます。

抽象と具体の違いについて

まず、総論として、抽象と具体の違いについて述べられています。

抽象は直接目に見えませんが、解釈の自由度が高く、応用が効きます。他方で、具体は、個々の事象なので、直接目に見えますが、解釈の自由度は低く、応用は効きません。

そして、抽象化という特質は、人間にしか持ち合わせていません。人間以外の動物にはそうした概念がないそうです。

例えば、犬は抽象概念がないので、仮に自動翻訳が出来たとしても、

「ご飯食べる?」

「えっ、ご飯って何?」

「エサのことだよ。」

「えっ、エサって何?」

…となることが想定され、「昨日も一昨日も食べたものだよ」とまで言わないと分からないだろう、とのことでした。

そう考えると、抽象概念こそ、人間の特質であることが分かってきます。

そうすると、学者と実務家の違いはこのようになります。

「学者や理論家の仕事は通常、複数の事象を一般化・抽象化することで理論化・法則化して、だれにでも役に立つ汎用的なものにする」

「理論化されたものはそのままでは実行するのが難しいので、それを具体化する必要があります。そのため実務家は、具体レベルでの実行を重視します。」(17ページ)

イメージとしては、抽象が上流で、下流が具体として、ピラミッド型を構成していると考えると、分かりやすいかと思います。

上流と下流

次に、抽象と具体の性質についても詳しく述べられています。

本書では、先述したように、上流が抽象、下流が具体として下記のように性質について言及しています。

「上流の仕事は、コンセプトを決めたり、全体の構成を決めたりする抽象度の高い内容なので、分割して進めることは不可能です。」

「上流の仕事は個人の作業から始まって、次第に参加者が増えて行きます。上流で重要なのは、個人の創造性で、下流で必要なのは、多数の人数が組織的に動くための効率性や秩序であり、そのための組織のマネジメントやチームワークといったものの重要性が相対的に上がっていきます。」(66ページ)

これは抽象と具体の違いを明確に述べた文章だと思います。

そして、マネジメントやチームワークが具体に属する、というのは、マネジメントは社長がやることではないか、だから上流に近いことなのでは、と思ったので、最初はびっくりしましたが、徐々に理解・納得しました。

また、上流には、全体把握が必須と図表に記載がありました。抽象化に必要なことが理解できると共に、創造の過程は人は個人または少数となる、という指摘も、なるほどな、と思いました。

下流では人が足りないことは問題ですが、上流では人から具体の意見を色々聞くが、そこから考えるのは、個人または少数なのだな、と理解しました。

そして、具体のところで下記記載がありました。

「クラウドソージングのような「衆知を集める」のは、とくに上流の方針が決まった上での下流の具体的なアイデアを多数出すときには有効な手段になります。」(67ページ)

今はオープンリソースでどんどんオープンにして、皆で改良していく時代、とは言いますが、とはいえ、元の抽象概念はしっかり決めて、下流に流してからが、この段階なのだな、と学びました。パソコン技術は難しいから抽象的なのかな、というよく分からない勘違いをしていました。

抽象論の取り扱い

この本を読んでいくと、抽象概念がよいことのように思われますが、良くない点もしっかりと記載されています。

その最たる点が、

「抽象化された知識や法則は、一見高尚に見えるだけに取り扱いに注意が必要」

という点です。ルールや理論、法則は、大抵の場合は具体的に起こっている事象の「後追い」の知識だったはずなのに、いつの間にか抽象が変えてはいけないかのような誤解を与える、ということです。

その動きが進んでしまうと、このような本末転倒現象が生じてきます。

「固定化された抽象度の高い知識は固定観念となって人間の前に立ちはだかり、むしろそれに合わない現実のほうが間違いで、後付けだったはずの理論やルールに現実を合わせようとするのは完全な本末転倒といえます。」(97ページ)

だから、規則の方を不断に見直す必要があるということでした。

この現象は現実にもよく起こっていますし、ドラマとしてよく描かれる情景の一つです。

例えば、リーガル・ハイという古沢良太脚本、堺雅人主演のドラマでは、本来、弱者の権利保護のために作られた法律が悪用され、悪用側に立つ裁判所・検察側と弁護士の主人公が闘います。

【参考】

ルールを絶対視するのはダメであり、抽象と具体のリンクを切らさないようにすることが必要だということです。

しかし、それがなかなか忘れられてしまうのが人間というものです。

いわゆる、「数字の一人歩き」という現象もよくあります。数値基準が絶対視される現象です。

例えば、メタボの判断基準として、腹周りが男性85センチ、女性90センチという基準があります。

しかし、専門家に言わせれば、その基準は厳密な数値ではなく、あくまで「目安に過ぎない」とのことです。

にも関わらず、一般的には、その数値を超えるとアウトであるかのように語られます。これが数値の一人歩きです。

類例は山のようにありますが、基準の設定趣旨を下流の人がちゃんと理解することが重要であるそうです。

世の中の問題の根っこにあることを理解した気がします。

抽象化思考を磨くために

では、どうすれば、抽象化思考を磨くことができるのでしょうか。

「多種多様な経験を積むことはもちろんですが、本を読んだり映画を見たり、芸術を鑑賞することによって実際には経験したことのないことを疑似体験することで、視野を広げることができます。そうすれば、「一見異なるものの共通点を探す」ことができるようになり、やがてそれは無意識の癖のようになっていきます。」(125ページ)

という記載がありました。

読書・映画・芸術とのことです。

本は読んでますが、最近映画・芸術は触れてないな、、とふと思いました。バランスをちゃんと意識して、触れていこうと思います。

おわりに

抽象と具体の関係はマジックミラーだそうです。

つまり、具体に生きる人から取ってみれば、抽象の世界は見えない。

これが、問題解決の時にも多くのネックを生み出します。

更に、人間はこのような皮肉な性質を持ち合わせています。

「人間は一人残らず抽象概念の塊なのですが、自分の理解レベルより上位の抽象度で語られると、突然不快になるという性質を持っている」(115ページ)

…人間って厄介ですね。

こうした人間の思考構造を解説した本が、今回の本です。理解が深まります。

なお、この本では特段解決法は伝えられていませんが、解決法は、「理解するまで手を変え品を変え説明し続けること」と、「具体の変化に伴い、抽象も変わることを理解し、必要に応じ規則を変える」だと考えます。

言葉で述べるだけだと簡単なのですが。

今回の書籍はこちら

この記事を書いた人

相羽涼太

相羽涼太

読書、手帳術、旅行記・訪問記・食レポ、ジム(運動、食事)、英語学習などを中心に記事を更新します。

インターネットの登場で、「考える」ことが減りがちな今こそ、自分なりの軸を持って、考え、発信していくことを大切にしたいと考えています。

SF(上位10位、2019年1月現在):慎重さ、収集心、個別化、責任感、自我、指令性、目的志向、自己確信、信念、学習欲

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